睡眠時随伴症と脳の働き、眠りの関係
この内容は全面的に「睡眠の科学」櫻井武氏著 講談社文庫第3章「睡眠と覚醒を切り替える脳の仕組み」より抜粋、引用SLEEPSHOP代表者の番上俊秀が編集し掲載しています。
脳の視床下部が睡眠に果たす役割=フォン・エコノモの発見
1920年前後にヨーロッパでウイルスによる脳炎が流行した。
その患者の中にこんこんと眠り続ける「嗜眠(しみん)症状」を表す患者と逆にひどい不眠を訴える症状を来す患者もいた。
フォン・エコノモの発見した視床下部の役割
神経脳学者フォン・エコノモは無くなった脳炎患者の病理学的所見から、脳の視床下部と呼ばれる部分(間脳と中脳の移行部)の前部に病巣がある場合は不眠を来すこと。視床下部の後部に病巣がある場合には、嗜眠症状を来すことを発見した。
この為現在でも嗜眠症状を示す脳炎をフォン・エコノモ脳炎と呼ばれる。
その後数十年経てこのフォン・エコノモの観察の正しさは証明された。
視床下部後部には、覚醒に深い関係を持つオレキシンとヒスタミンと言う脳内物質を作るニューロンが存在していた。
また視床下部の前部には視索前野と言う部分が含まれ、ここに睡眠を作り出すシステム(睡眠中枢)が存在していることが分かった。
フォン・エコノモの主張の様に、視床下部には睡眠と覚醒に関わる部分が存在する。
これらが脳幹に存在する覚醒を制御するニューロン郡に働きかけ、睡眠と覚醒のスィッチが切り替えられる。
を示す図
視床下部の働き
視床下部は動物の恒常性(状態を一定に保つ)を制御する役割を果たしている。恒温動物の体温は気温が変わってもほぼ一定に保たれている。
また、血圧や血液中の様々な物質の濃度等も一定に保たれている。
このように生体の様々な機能は、内外の環境が変わっても変動が一定の範囲に保たれている。
こうした恒常性の制御は、自律神経系の機能や、ホルモン濃度の調整によって行われている。
視床下部は自律神経系や内分泌の機能を調整することによって、全身の恒常性を維持している。
視床下部は恒常性の中枢であるが、同時に情動や本能行動にも関わっている。
そして睡眠と覚醒のコントロールに置いて重要な働きをしている。
睡眠も本能行動の一つなのである。
断眠を続けると視床下部の恒常性維持機構に破綻が起きる。
睡眠は視床下部によってコントロールされているが、逆に視床下部の機能にとっても睡眠は不可欠なものである。